とりあえず,あたりを探すが,見当たらない.仕方がないので来た道を引き返してみることにした.
最初は,歩いていたが焦る気持ちでだんだんとペースが上がる.早歩き,小走りを経て最終的には全力疾走.
いやー,もう歩けん.なんて思っていたけど,限界なんてものはまだまだ遙か先なんだろうね.いざとなったら走れるもん.
息が切れて足を止めた.息を整えながら少し冷静になって考えると,やっぱりどう考えてもあの親切そうなおじさんが荷物を取るとは考えられない.
おじいさんも何かの拍子に俺のことを見失って探しているとすれば,11番藤井寺を訪れるはず.ということに気づいたのでやっぱり藤井寺へ引き返すことにした.パニックになっててこんな簡単なことも考えられなかったとは・・・人の思考というのは想像以上にもろい.
藤井寺についてもう一度,車とおじいさんを探してみるが,見つからない・・・
やっぱり駄目かとあきらめかけた時に遠くで手を振る人が!なんとそれはあの親切なおじいちゃん.
どうも少し離れた所に無料の駐車場があるらしく,そこへ車を停めて寺へ来て見ると俺の姿が見えなかったので探していた様子.
急いで参拝をしたのが,逆に仇となったようです.少しでもおじいさんを疑った自分が恥ずかしくなった.
おじいさんと感動の再会を果たした後,再び藤井寺の中を案内してもらい,無事最寄りの銭湯まで送ってもらっておじいさんとは別れた.
じっくりと湯船につかって,次の12番焼山(しょうさん)寺へ向かう英気を養う.
しかもなんとこの銭湯,利用者の歩き遍路には無料で遍路小屋を使わせてくれるらしい.
次の焼山寺へは12.3kmの山道で四国遍路屈指の難所.そんな険しい山道のことを「遍路ころがし」なんて言ったりします.
バイブルによると健脚5時間とのこと.風呂からあがると時刻は午後1時30分.
この時点で選択肢は2つある.
①銭湯の遍路小屋で1泊して翌日早朝から出発し,1日で12番を打つパターン.
②今日中に12番までの中間地点にあるという山小屋まで行き,そこで1泊し,2日かけて打つパターン.
安全策をとるなら①.そのかわり今日はここで足止めということになってしまう.
悩んだ結果,スピード重視の②にすることにした.
登山の前に腹ごしらえにと近くの商店でカップラーメンと飲み物を購入するとカップラーメンだけじゃあお腹がすくでしょうと奥へ通してもらいご飯と漬物を出してくれた.
食事中もその家のおじいさんがいろんな話を聞かせてくれてとても楽しかった.
車で送ってくれたおじいさんといい,銭湯の無料遍路小屋といい,この店の人々といい,この町の人は特別親切な気がする.人々の厚いもてなしや頑張りなさいという声に,期待に答えなければという思いも生まれる.
おじいさんの話に夢中になっているといつの間にか3時に近くなっていた.店の人達にお礼を言い出発.
それから山道を登り始めたのが3時半頃.
↑この山を超えます.
険しさは想像以上.
日が暮れるまでに山小屋へ到着しなければ,こんな山中で1泊というあまりに無謀な手段を取らなければならない.
商店のおじいさんの話によると,マムシなんかも出るとか出ないとか.つまり寝袋だけで山中に1泊は自殺行為.
死にたくないので急ぐ.
穂
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